さて、そもそも会社が社歌を作るきっかけはどのようなものでしょうか?
①周年記念
グラフにあるように、最も多いきっかけは周年記念です。
私の元にご相談いただく電話やメールの半分近くは「来年の〇月に設立〇周年を迎えることになった。ついては社歌を制作することを検討している」というものです。
多くは周年記念式典のプロジェクトリーダーの方や、周年記念事業を任された経営企画室、人事部、総務部など関連部署の方から連絡があります。
ここ最近の社歌ブームもあり、周年記念をきっかけに、式典で新しくできた社歌を披露し、定着させていきたいという声が多く聞かれます。
また元々社歌はあるが、周年を機に時代や現在の当社の理念や事業形態に沿った新たな社歌を策定したい、というケースもあります。
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②経営者の発案
次に多いのは経営者から「社歌を作ってみたい」という話が出た、というきっかけです。
経営者の方が知り合いの会社の社歌を聴いた、や社歌コンテストなどのイベント記事を新聞で読んで「うちも作ってみよう」ということになったケースも少なくありません。
この場合は経営者の方みずからご連絡をいただく場合や秘書の方からお問い合わせをいただくことが多く、実際の社歌づくりの場面では社長みずから歌詞の一部を制作いただくこともあります。
また世代交代で先代から会社を引き継いだので、これまでの会社の歩みや先駆の人たちの偉業を社歌として残したい、という経営者の想いも社歌づくりのきっかけとしてあるようです。
③新たな事業展開
周年記念と経営者の発案という二つが大半を占めますが、その他には新たな事業展開をきっかけに社歌の制作をしたい、という会社もあります。
会社が新たなフェーズに向かうタイミングで社員の気持ちをひとつにしたい、次のステップへのチャレンジシップを醸成していきたいというものです。
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④合併やグループ化
さらに企業合併やグループ化をきっかけに社歌制作をされる会社があります。
新しい仲間と価値観を共有したい、共にこれから歩んでいく気持ちを合わせたい、という社歌の制作です。
この場合、それぞれの会社には既存の社歌があることも多く、それらの社歌は残したうえで、あらたに作る楽曲は「グループ歌」という位置づけにして既存の社歌と併用するケースもあります。
⑤既存社歌の編曲・再収録
意外と多いのはこのケースです。
数十年前に制作した社歌はあるが、残っているのはカセットテープやソノシート(塩化ビニールなどで作られた薄手のレコード)と紙ベースの楽譜のみ。また演奏も少し古めかしいので、譜面はそのままで編曲(アレンジ)を現代風にして、歌も収録しなおしたい、という要望は少なくありません。
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⑥その他のきっかけ
中にはユニークな社歌制作のきっかけもあります。
夏も押し迫ったある日、三重県のとある会社から電話がありました。
「急いで社歌を作りたい」とのこと。お話を聞くと、この会社の野球チームが都市対抗野球の地区大会で優勝し、来月東京ドームで行われる全国大会への出場が決まった。都市対抗野球の全国大会では、試合前のエール交換の時に社歌斉唱をすることになっているので急遽社歌が必要になった、ということでした。
急いで三重に行き、打ち合わせをした後、短い期間に何度もミーティングを重ねて社歌と応援ソング、そしてヒッティングマーチの三曲が完成しました。
いざ東京ドームの多くの観衆の中で社歌が流れたときに感動したのを覚えています。
また社歌という会社全体のオフィシャルなものではなく、新サービス展開をきっかけに社内の各部署から横断的に5つのプロジェクトが立ち上がった。プロジェクトのキックオフミーティングに花を添えるために、キックオフの時にみんなで歌えるスペシャルソングの制作したい、ということで楽曲制作のお手伝いをさせていただいたこともあります。
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このときはそれぞれ特徴のある各プロジェクト名やそのプロジェクトのキーワードを元に歌詞ができあがり、収録時にはプロの歌手と一緒にプロジェクトリーダーの方々にも歌っていただきました。
さらにある会社では、入社してから一年を経た社員たちの振り返り研修の時に記念の楽曲を制作する、というケースもありました。
研修の最後のプログラムとして、一年目社員たちがこの一年で得た自分の経験や考え方から歌詞を制作することで、入社してからの一年間を振り返るというものでした。
研修中に出来上がった歌詞には、プロ作曲家が曲をつけ後日社内で楽曲が共有されました。
一年目社員の中には、携帯の待ち受けメロディーとして使っている方もいらっしゃいました。
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このように社歌制作のきっかけには周年記念を始めとし、さまざまなケースがあります。
ただすべてに共通しているのは、社歌は「会社の理念やビジョンをわかりやすい言葉で共有し、社歌を歌うことや聴くことで社員の絆を深めていく」という目的のもとに作られているということです。
後の章で紹介しますが、最近は社歌の曲調も変化し耳馴染みの良い音楽に自分たちの働く気持ちが歌詞として表現されていることで、「直立不動で歌わされる社歌」から「聴いて元気になれる社歌」や「カラオケでみんなで歌いたい社歌」に変わってきています。
社歌は「共感」のためのツールとして定着しつつあるのです。